Interacting Plot of Atomic nuclei  & Computed Shapes

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原子核に関するQ&A

原子核ってなに?

原子核はなにでできているの?
原子核は陽子と中性子の集合体です。陽子や中性子は中間子という粒子を交換することでお互いに引き合っていますさらに細かく分解すると、陽子・中性子・中間子は、全てクォークがグルーオンを交換することで結合したものです。
原子核はどうやってできてきたの?
ビッグバンで誕生した超高温の宇宙が膨張しながら冷えていくと、間もなく陽子や中性子が作られました。陽子は水素の原子核なので、これが水素の誕生です。陽子と中性子を結合させれば様々な元素の原子核が作られるわけですが、当初は、ヘリウムを作るのが精一杯で、非常に軽い原子核だけが存在していました。それから3億年ほどで、水素やヘリウムから星が誕生し、その星の内部で核反応が始まり、原子番号の大きな重い元素が作られてきました。さらに、星が一生を終えて爆発する時や、天体同士が衝突した時にも、一部の原子核が破壊されながらも、別の重い原子核を作っていると考えられています。このように、宇宙では常に元素合成を繰り返しています。
(「S過程(sプロセス)、R過程(rプロセス)ってなに?」参照)
原子核の数はいくつあるの?
自然界に普通に存在している安定核と呼ばれる原子核はおよそ300核種です。しかしこれは原子核の中のほんの一部で、短時間だけ存在して崩壊してしまう不安定核は、正確にいくつあるのか分かりません。おそらく1万近くあると思われます。
(不安定核・安定核ってなに?」、「原子核はどんなふうに壊れるの?」、「まだ見つかっていない原子核があるの?」参照)
原子核はどうしてこんなにたくさんあるの?
原子核は陽子と中性子の組み合わせで作られるからです。元素は原子核中の陽子数だけで決まるので、一つの元素に対応する原子核は沢山あります。
(「同位元素ってなに?」参照)
同位元素ってなに?
同じ元素で、陽子数が同じで、中性子数が異なる原子核を持つ元素です。同位体(アイソトープ)と呼ばれることもあります。
(「原子核はどうしてこんなにたくさんあるの?」、「原子核の表記はどうやって読めばいいの?」参照)
原子核の表記はどうやって読めばいいの?
元素記号の左上に質量数をつけて、「元素名+質量数」で呼ぶのが慣習です。例えば、12Cは「炭素12」(英語では、Carbon-Twelve)と読みます。炭素は原子番号すなわち陽子数が6なので、中性子の数は質量数?陽子数で6になります。左下に陽子数、右下に中性子数を書いて、126C6と書くこともあります。
(「同位元素ってなに?」参照)

 

原子核ってどんな大きさ、重さ?

原子核の大きさはどれくらい?
一番小さな水素の原子核で、原子の10万分の1程度の大きさ。ウランのような大きな原子核でも、1万分の1程度です。体積で比べると、1兆分の1、あるいはそれ以下となります。電子顕微鏡でもまったく見ることはできません。これを「見る」ためには、加速器を使った大掛かりな装置が必要です。
原子核はどこまで大きくなれるの?
原子核の体積は陽子数と中性子数を加えた質量数にほぼ比例しています。陽子は正の電荷を持っているので、陽子と中性子をどんどん結合させていくと、やがて陽子同士の電気的反発(クーロン相互作用)が強くなり、分解してしまいます。したがって、自然界に存在する原子核では、ウランの原子核(原子番号92)が最大です。不安定核としては、もっと大きな原子核も存在します。例えば、理研で生成されたニホニウム(Nh)は、陽子数が113、中性子数が165です。一方宇宙には、中性子星と呼ばれる、強い重力で結合した巨大な原子核があります。電気的反発を小さくするため、中性子の割合が極端に大きく、名前の由来になっています。
(「原子核はどこまで重くなれるの?」参照)
原子核はどこまで重くなれるの?
原子核の質量は質量数(陽子数+中性子数)に比例します。また、体積も質量数に比例するという性質があるので、「どこまで大きくなれるの?」と「どこまで重くなれるの?」という質問に対する答えは同じです。
(「原子核はどこまで大きくなれるの?」参照)
原子核って重いの? 軽いの?
目に見えるほどの大きさの原子核がもし存在したら、それはとてつもなく重い物質です。しかし、これは中性子星のような特別な場所にのみ存在できます。このように原子核の大きさ(重さ)に限界があるのは大変重要で、無かったら、この宇宙は中性子星とブラックホールばかりになってしまい、人類は存在できないでしょう。
(「物質の重さって原子核の重さ?」参照)
物質の重さって原子核の重さ?
その通りです。電子は原子核よりはるかに軽いので、物質の重さはほぼ全て原子核の重さです。つまり、自分の体重も含めて、我々が日々感じる重さは、物質の中に入っている原子核の重さだと言えます。
(「原子核って重いの? 軽いの?」参照)

 

まだ知らない原子核はあるの?

まだ見つかっていない原子核があるの?
これまでに実験で確認された原子核はおよそ3,000核種です。まだ見つかっていない原子核は、これと同じくらい、あるいはそれ以上あるのではないかと理論的に予想されています。
(原子核の数はいくつあるの?」参照)
まだ見つかっていない原子核はどうやって見つけるの?
元素合成が行われている宇宙には、未知の原子核が大量にあると考えられます。しかし地球上をいくら探しても見つかる可能性はほとんどありません。そこで、加速器を使って人工的に生成します。例えば、理化学研究所のRIビームファクトリーでは、原子核同士を衝突させて、分解させたり、融合させたりすることで未知の核種を生成しています。
まだみつかっていない原子核の性質はどうやって調べるの?
ある速度で運動する原子核を磁場の中に通すと、電荷量に比例した力を受けるので、陽子数の大きな原子核は進路を大きく曲げられます。中性子数が大きいときには、質量が大きくなるので曲がりにくくなります。この性質から、作り出した原子核の種類を決めることができます。不安定核は短時間で壊れてしまうので、生成してから様々な性質を調べる実験するまで、短時間で行う必要があります。

 

安定な原子核、不安定な原子核

不安定核・安定核ってなに?
一言で言えば、有限の時間で崩壊して他の核種に変わってしまう原子核が「不安定核」、いつまでも変化しないのが「安定核」です。しかし、この「いつまでも変化しない」という言葉はやや曖昧で、安定と不安定を区別する明確な境界は決まっていません。例えば、普通安定核に分類されるウラン(238U)の原子核の寿命(半減期)は45億年、地球の年齢とほぼ同じです。これより寿命の長い元素も沢山ありますが、なかなか崩壊しないので観測するのが大変です。ビスマス(209Bi)は1019年、テルルの同位体は1020~1024年といった寿命が観測されています。このぐらいになると、宇宙年齢よりはるかに長いので、「安定核」と呼んで問題ないでしょう。
(「原子核の数はいくつあるの?」、「原子核はどんなふうに壊れるの?」、「ハイゼンベルグの谷ってなに?」「中性子ドリップライン・陽子ドリップラインってなに?」参照)
基底状態、励起状態ってなに?
原子核の種類を指定したとき、基底状態とは最もエネルギーが低い状態を指します。一方、励起状態とは、同じ原子核に存在するエネルギーの高い状態ですが、光(ガンマ線)を出して基底状態に遷移するなど、準安定な状態に対応します。
原子核はどうして同じ数の中性子と陽子を好むの?
主に2つの理由があります。一つは、陽子同士・中性子同士の間に働く引力よりも、陽子・中性子間に働く引力の方が強いという核力の性質です。湯川秀樹が予言したパイ中間子の交換で核力が働くと考えると、この違いは、同種粒子間には電気的に中性のパイ中間子のみが交換でき、異種粒子間には荷電パイ中間子も交換できることに起因します。もう一つの理由は、陽子や中性子がフェルミ粒子だということから理解できます。フェルミ粒子は、同じ状態に1つの粒子しか入れません。これをパウリ排他原理と呼びます。図のように、質量数の同じ原子核を考えると、エネルギーの最も低い状態から順番に粒子を入れていったとき、同種粒子ばかりよりも、異種粒子が同数あった方がエネルギーを低く抑えられることが分かります。

 

原子核はどんなふうに壊れるの?
安定な原子核はとても固く簡単には壊せません。壊すためには大きなエネルギーを必要とします。しかし不安定核はより安定な原子核へと自らを変化させます。その際に起きる現象を「崩壊」と呼びます。崩壊には、アルファ、ベータ、ガンマの3種類があります。
(「アルファ崩壊ってなに?」、「ベータ崩壊ってなに?」、「ガンマ崩壊ってなに?」参照)
アルファ崩壊ってなに?
原子核からヘリウム原子核(陽子2、中性子2)が飛び出す現象です。当然軽くなって原子番号が2つ減ります。飛び出たヘリウム原子核をアルファ線と呼びます。
(「原子核はどんなふうに壊れるの?」、「ベータ崩壊ってなに?」、「ガンマ崩壊ってなに?」参照)
ベータ崩壊ってなに?
原子核内の中性子が陽子に変化する反応のことです。そのとき、電子と反ニュートリノを放出します。この逆に陽子が中性子に変化する場合もあります。陽子の数が ±1 だけ変化するので、原子番号が ±1 だけ変化します。飛び出た電子(陽電子)をベータ線と呼びます。陽子と中性子の質量はほぼ同じなので、崩壊による原子核の質量変化は小さく、わずかに軽くなります。
(「原子核はどんなふうに壊れるの?」、「アルファ崩壊ってなに?」、「「ガンマ崩壊ってなに?」参照)
ガンマ崩壊ってなに?
原子核が基底状態ではなく励起状態にあるとき、光を出してエネルギーの基底状態に向かって落ちて行きます。原子核から出るこの光は、X線よりもエネルギーが高く、ガンマ線と呼ばれます。ガンマ崩壊では、核種は変化しません。自然界で観測されるガンマ線の多くは、ベータ崩壊の後に原子核が励起している場合が多々あり、それがより低いエネルギーの状態へと遷移する際に出てくる光です。
(「原子核はどんなふうに壊れるの?」、「アルファ崩壊ってなに?」、「ベータ崩壊ってなに?」参照)
魔法数(マジックナンバー)ってなに?
陽子数または中性子数がある特別な値を持った原子核が、周りの原子核に比べて安定性が高いことが知られています。この数を魔法数と呼びます。安定核で知られているのは、2、8、20、28、50、82、126です。たとえば、カルシウムは陽子数20で、魔法数に対応します。中でも、40Caや48Caは中性子数20・28で魔法数になるので、二重魔法核(doubly magic nucleus)として安定性がさらに増します。
ハイゼンベルグの谷ってなに?
2次元の核図表を3次元にして、上向きに原子核の質量を取ると、ベータ崩壊を起こさない安定核の集まりは、あたかも谷筋を流れる川のようになります。これを「ハイゼンベルグの谷」と呼びます。
(不安定核・安定核ってなに?」参照)

 


(理化学研究所・仁科加速器研究センターHPより)
中性子スキンってなに?
中性子を過剰に含んだ原子核において、中性子の分布が陽子の分布よりも外に広がっているために、中性子だけの「皮」を作ることがあります。イメージとしては下の図で、青で示された中性子が赤で示された陽子分布よりも外に出ています。表面付近に中性子だけの層(皮)が存在することになります。

 


中性子ハローってなに?
極限的に中性子を過剰に含んだ原子核では、中性子を剥ぎ取るために必要なエネルギー(中性子分離エネルギー)が非常に小さくなります。すると、量子力学的効果で、中性子がフラフラと原子核の外に大きく染み出した構造を作ります。薄い密度の中性子が大きく広がった暈のようになることから、英語でハローと呼ばれます。

 


中性子ドリップライン・陽子ドリップラインってなに?
陽子に対して中性子が多すぎると、中性子の分離エネルギーが小さくなります。これがゼロとなる核種を結んだ線が中性子ドリップラインで、これを越えると中性子をそれ以上結合できない限界、核図表における右側の存在限界を表します。逆に中性子の数を減らして行くと、陽子の分離エネルギーが小さくなり、それ以上中性子を減らすと陽子がこぼれ落ちてしまう限界があります。核図表の左側の存在限界で、これを陽子ドリップラインと呼びます。陽子が多い場合にはクーロン斥力のため不安定化しやすいため、安定線(ハイゼンベルグの谷)からの距離は、中性子ドリップラインの方が圧倒的に遠いところにあります。実験的に未確定の原子核は、そのほとんどが中性子を過剰に含む核種です。
(不安定核・安定核ってなに?」参照)
「安定の島」ってなに?
ニホニウムなどの超重元素の原子核は、寿命が短く、作り出してもあっという間に崩壊してしまいます。しかし理論的には、現在作られている超重核よりもずっと中性子数の多いところに、寿命が長い準安定核が存在するかもしれないとされています。このあたりに中性子の魔法数が存在すると考えられているからです。この寿命の長い超重核の周りはすべて寿命の短い不安定原子核の海のようになっていることから、安定の島と呼ばれています。

 

原子核の形って?

原子核のカタチはどんなカタチがあるの?
球形以外に、レモン型(ラグビーボール型)、みかん型(パンケーキ型)、キウイ型(三軸非対称型)といった切断面が楕円になる形が多く出現します。これ以外にも、洋ナシ型(ひょうたん型)の原子核も知られています。これらは基底状態の形ですが、励起状態には四面体型、バナナ型、棒状に長く伸びた形といったエキゾチックな形が予想されています。また宇宙に目を向けると、中性子星の表面付近には、棒状、板状、穴空き型、など様々なカタチの原子核が存在すると予言されています。
重陽子ってダンベル型なの?
重陽子(重水素の原子核)は陽子と中性子が1つずつ結合した原子核ですが、2原子分子で良く目にするダンベルのようなカタチではありません。陽子・中性子間の距離が量子的に大きく揺らいでいて決められないからです。このような強い量子性を持って揺らいでいる系が、様々なカタチを作るというのは不思議なことです。
変形度ってなに?
まん丸の球形からどれだけずれているかを表す指標で、変形の種類に応じて何種類もの変形度があります。「さわれる核図表」には、ベータ変形度・ガンマ変形度・八重極変形度の3種類を示しています。八重極変形度は洋ナシ型変形の度合いを表します。ベータ変形度は、球形を引き伸ばしたり押しつぶしたりする、その度合いです。一方、ガンマ変形度は伸ばすのか、潰すのか、あるいはその両方なのか、を示していて、角度と同じ「度」を単位とします。球形をただ引き伸ばしたレモン型のガンマ変形度はゼロ、潰した時にはみかん型でガンマ変形度は60度に対応します。引き伸ばしたレモンを横から潰すとキウイ型で、この時ガンマ変形度は0と60度の中間になります。
原子核のカタチはどうして変わるの?
球形ではない原子核が現れるのは、対称性の自発的破れと呼ばれる現象の一つです。計算によってどの原子核がどんな形をしているか予言できますが、なぜそのような形になるのか、これは難しい質問です。量子力学特有の殻効果と呼ばれる効果がカタチを決めているのですが、どういう場合にどんな形が出現するのか、簡単に説明することができません。「さわれる核図表」で色々な原子核の形を表示させてみてください。魔法数に近いところは球形、そこから陽子数・中性子数を増やして行くとレモン型になってだんだん変形が大きくなります。それを超えて次の魔法数に近づいて行くと、キウイ型が現れて、最後はみかん型を経て球形に戻ります。例外はありますが、だいたいこのような変化を見せます。
原子核のカタチが変わるとどんなことが起きるの?
まず、励起状態に大きな変化が現れます。量子系の場合、球形の原子核は回転できませんが、変形していれば回転ができます。このため、回転バンドと呼ばれる特徴的な励起状態が出現します。また、洋ナシ型に変形すると、別の特徴的な状態(パリティ・ダブレット)が現れます。また、変形は基底状態の半径を変化させたり、寿命に影響があったりと、原子核の色々な性質が変化します。
原子核のカタチを知るには、どんなシミュレーションをするの?
「さわれる核図表」に示したカタチの計算には、密度汎関数理論という理論手法を用いています。これは、陽子と中性子の密度分布を与えるとエネルギーが決まるという密度汎関数を用いて、これを最小化するように密度分布を決めています。実際には、量子力学のシュレディンガー方程式に似た波動方程式を何度も反復して解くことで、この最小化を行います。
原子核のカタチのシミュレーションにはどれくらい計算時間がかかるの?
計算の精度、近似、仮定などで大きく変わりますが、「さわれる核図表」に表示した計算については、普通のパソコンを用いると、一つの原子核に数時間から数十時間程度かかります。

 

原子核をつくる、変える

S過程(sプロセス)、R過程(rプロセス)ってなに?
っくりと進行して重い原子核を生成します。Sはslowの頭文字です。もう一つのR過程は、これよりもはるかに中性子が大量に存在する環境下で、ベータ崩壊を起こすよりも早く次々と中性子吸収をして一気に重たい中性子過剰核を作る過程です。核反応が止まってしばらくすると、ベータ崩壊を繰り返して過剰な中性子をどんどんと陽子に変えて安定核に到達します。こちらはrapidの頭文字を取っています。R過程は、宇宙のどこかで起きていることは間違いありませんが、どこで起きているのか、核図表上のどの経路を通っているのか、まだ分かっていません。長い間、超新星爆発の際にR過程が進行すると考えられていましたが、最近は他の爆発的天体現象、例えば中性子星の合体なども注目されています。
(「原子核はどうやってできてきたの?」参照)
人工的に原子核を作り出したり、別の核種に変換できるの?
何もないところから原子核を作ることは出来ませんが、原子核を別の原子核に変えることは出来ます。核変換と呼ばれます。世界で最初にこれを行ったのが、原子核を発見したラザフォードで、窒素の原子核にアルファ線を当てて酸素を作り出しました。
原子核の寿命を変えることはできるの?
原子核を別の核種に変換(核変換)すれば、寿命の長い原子核を短い核種に変換したり、その逆も可能です。しかし、原子核から放出されるエネルギーの大きさは非常に大きいので、物質の中に放射性元素を入れても、その寿命はほとんど変化しません。原子核の周りの電子を全て剥ぎ取ることで寿命が変化する原子核は知られています。
(人工的に原子核を作り出したり、別の核種に変換できるの?」参照)
放射線を出す元素を出さないものに変換できるの?
出来ます。不安定核を安定核に核変換することは可能です。しかし、特定の核変換だけを大量に起こして、放射線を出す物質を出さない物質に変換することは、実現していません。大量の核反応を、しかも特定の反応だけを起こすということが、現在の人類の科学技術では困難なのです。
(人工的に原子核を作り出したり、別の核種に変換できるの?」参照)